人格障害と聞くと、一般的な響きやイメージはあまり良くありません。この人格障害は、人格の偏りのために、自分自身が悩んだり、社会生活を送る上で困難をきたしたりする人のことを指します。このような社会にうまく適応できないパターンが長期にわたって続いていて、一般的には青年期に顕在化し、年齢が上がるにしたがって、障害の程度は軽くなるといわれています。
人格という言葉は難しいので、人格について少し説明しておきたいと思います。人の考え方、感じ方、態度、行動、興味、人生観や対人的かかわりは、個人によってかなり異なっていて、人それぞれ、独特の複雑なパターンをもっています。このような独自な状態や行動のパターンを人格と呼んでいます。
人格障害はいくつかの型に分類されます。まず時折、雑誌やテレビでも話題になる「境界性人格障害」について述べます。若い女性に多く見られますが、作家の太宰治や女優のマリリン・モンローもこの病気にかかっていたといわれています。
最も重要である「境界性人格障害」は、次のような特徴をもっています。まず第1に激しく上下に揺れ動く不安定な感情をもち、他人に対して、甘えていたかと思うと急に怒り出すといったように、依存と攻撃が繰り返されます。2番目には慢性的な空虚感や孤独感をもっていて、こうした気持ちを満たそうとするために、自分の体を傷つける、過食、大量飲酒などが起こります。3番目には見捨てられることに対する激しい不安があり、気が狂わんばかりの努力、たとえば自殺をほのめかして、相手を自分に繋ぎ止めようとします。4番目に手首を切る、アルコールや麻薬の乱用、大量服薬など、自己破壊的な衝動行為がみられることがあります。
みかけは華やかで、他人を引きつけるような魅力をもち、深みのある会話ではないが、興味深い会話を提供し、話し方もうまいです。しかし自尊心や自己顕示性が妙に高すぎたり、逆に急に依存的になったりするため、対人関係においてほどよい距離をとることができず、対人関係づくりに失敗している人たちが多くみられます。
本人が自らの性格に困って来ることもありますが、実際的には、自殺を試みようとした、薬物乱用から抜け出せない、親友に裏切られて死にたいなどの訴え、あるいは暴力、性的逸脱などの問題行動のために、家族が困って受診する場合が多くみられます。家族を含めた周りの人たちは、急激な感情の変化に戸惑うことなく冷静に対処し、対応に困れば、あまり抱え込まないで、専門家に相談することが必要です。
境界性人格障害に似た「自己愛性人格障害」もあります。自分には人並みはずれた才能や力があり、限りない成功、美しさ、権力や愛をほしいままにできると空想しています。また自分は絶えず他人から注目され、賞賛されたいという自己顕示欲をもっています。他方で他者の評価や言動には敏感で、簡単に傷つき屈辱感を味わってしまうため、持続した対人関係をもつのはなかなか難しいといえます。
3番目に「失調質人格障害」です。周りからみると、奇妙で風変わりな印象を与え、自ら人と積極的に関わることをせず、社会から孤立し、引きこもる傾向にあります。時には、社会の底辺にひっそりと身を置いていたり、あまり人間関係を必要としない職場に何とか適応していたりする人もあります。
この人格障害の特徴は、内向的で他人とほとんど関わりをもたず自分の世界に閉じこもり、孤立した行動をとるため、周囲からは変わり者として見られている場合が多く、温かさや優しさに欠け、冷淡で淡々としており、共感能力も乏しいと言われています。他人と親密な関係になることを好まないため、親しい友人や信頼できる友人もほとんどおらず、社会規範や慣習には無頓着で、他人の意見にもあまり耳を貸そうとしません。こうした人格障害者は普通に日常生活を送っている時には、自ら悩まず、社会も困ることはありません。問題になるのは、突然、街中で奇妙な振る舞いをしたり、トラブルを起こしたりする場合です。
もともと変わり者で、独自の世界に生き、社会通念にとらわれず、社会から孤立し、あまり人とかかわらない人たちです。人間関係を必要としない、自分固有の世界に専念できる芸術、研究などの分野で活躍している人もあります。比較的小さい頃から変わっている子とみられていて、青年期で病気が明らかになることが多いといえます。
4番目に「回避性人格障害」です。この人格障害は劣等感や不確実感を抱いているために、失敗や周りの人たちの拒絶を極端に恐れ、そうした状況を回避しようとします。その結果、対人関係においては常に消極的で、ごく限られた範囲でしか親密な人間関係を形成することができません。
もともと内向的で、劣等感が強く、傷つきやすい人です。最近、問題になっている「引きこもり」の一部は、この回避性人格障害にあたるといわれています。彼らは、常に自分にまつわる不安や緊張を持っていて、失敗や傷つきを恐れて、対人関係を避け、閉じこもってしまいがちます。困ったことがあっても、自分自身からは失敗をおそれて関わろうとしないので、対人緊張を和らげるように受容的に接する必要があります。
最後に治療について述べておきます。他の人格障害と比較して、境界性人格障害は心理療法が有効であるといわれています。しかし人格の偏りを心理療法によって修正しながら人格の成長を目指すわけですから、数年という長期にわたる期間が必要です。不安定な感情や問題行動を一時的に抑えるとか、不安や興奮を消退させる場合には、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬を状態に応じて使用します。
他の人格障害は一般的に、本人自身に治療の動機も乏しいので、治療はなかなか難しいといえます。不安、緊張、攻撃、興奮が強くみられる時には、抗不安薬や低容量の抗精神病薬を使用します。しかし、人格の偏りに対する薬物療法はほとんど効果がないといわれています。